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続・断らない彼女・2


          ◇     ◇     ◇

 ベッドの上で仰向けになった亜季は、高鳴る鼓動の音を内に聞きながら目の前の相手を見つめた。
 覆い被さるように上から見下ろしてくる幼馴染み。ベッドに着いて体を支える両手は亜季の肩口近くにあり、まるで格子のようだと亜季は思った。
 しかし嫌悪はない。緊張と高揚が入り混じり、熱っぽくなっていく感覚が少し心地よい。
 雪成の顔が近付く。睫毛が長い。鼻筋が真っ直ぐ通っている。恰好いいとか綺麗とかそういう感想はなぜか出てこない。
 思ったのは──愛しい。
 それだけで、この状況を受け入れるのには充分だった。
 雪成は亜季の頬に手を添えると、ゆっくりとキスをした。
 さっきのような荒々しいキスではなく、いたわるような優しいキスだった。口唇が柔らかく亜季を撫でる。
 亜季は一瞬どうしようか迷った。こちらも積極的に応えるべきかどうか。
 しかしその間に雪成の唇が離れる。亜季は「あ……」と声を洩らした。
「……不満か?」
「!」
 顔が熱くなる。でも、それは雪成の勘違いだ。不満とかそんなんじゃ、
 ……本当に勘違いなのだろうか。
 答えを返す間もなく雪成の口がまたくっついてきた。
 さっきよりも深く繋がる感触。海に溶け込むような心地よい安心が広がっていく。
 勘違いではないかもしれない。繋がっていることに、こんなにもほっとするのだから。
 亜季は相手の背中に手を回して、自分から深く求めた。
 雪成の口が細かく動いた。唇に生温かい何かが触れる。
(舌が、)
 亜季の弛緩していた体が一気に強張った。唇を舐め回していたかと思ったら、隙間から舌がねじ込むように侵入してくる。
「んんっ……」
 強引に突破され、無理やり口を開けさせられる。だらしなく開いた口から涎が染み出るように垂れて、頬を伝って落ちていく。
 舌同士が絡み合った。雪成の舌は蛇のようにしつこくまとわりつき、亜季の口内をなぶる。肉が触れ合った瞬間、亜季はぞくぞくと背中が震えた。
(……こんなに、気持ちいいんだ)
 不快感はまるでない。亜季にとって初めてのキスで、ましてやディープキスなど経験どころか想像さえろくにしたことがなかったが、しかし痺れるくらいの感触は、決して悪くないものだった。
 それどころか、
(離れたくない──)
 亜季は雪成の体を強く抱き締める。背中のごつごつした肉感が掌を通して伝わってくる。
 絡み合う二つの舌は唾液と熱を交換するように密着し、互いの味を求め合った。擦れる歯が、顔を撫でる息が、興奮を高めていく。
「んっ」
 不意に雪成の右手が動いた。左胸を触られて思わず声が出る。感じたわけではないが、驚いて。
 雪成の口が名残惜しげに離れた。
「……柔らかい」
 何を言うかと思えば、たったそれだけだった。亜季は拍子抜けする。
「私の胸、そんなに大きくないよ」
「でも揉めるぞ」
「……ひょっとして、小さい方が好きとか」
「お前のならなんでも好きだ」
「……」
 話している間も雪成の手は止まらない。
 左手も同じように動く。両胸を同時に揉まれて、亜季は恥ずかしくなった。
「ゆ、雪成くん……」
「服、脱がすぞ」
 両手が胸から少し離れる。ブラウスのボタンが上から順に外されていき、その下のシャツも捲り上げられた。抵抗する間もなく、胸を包む下着も上にずらされる。
 亜季は反射的に胸を右腕で隠した。
「見えないぞ」
 不満げに呟かれる。
「ごめんね。いざとなると……ちょっと恥ずかしい」
「さっきも言ったけど、今さらやめないからな」
「……うん」
 右腕をおそるおそる下にどける。
 乳房が露になると、雪成の息を呑む音が聞こえた。
「……どう、かな」
「……」
 雪成は答えない。呆けたようにただ亜季の胸を凝視している。
「いいよ、……触って」
 亜季は心持ち胸を張る。あまりボリュームに自信はないが、雪成が好きと言ってくれるならもう気にしない。
 左胸に、次いで右胸に大きな手が降りる。未成熟な果実をもぎ取るかのように、指が膨らみをしっかりと包み込んだ。
 始めは慎重に。次第にやわやわと大胆に揉まれる。特に気持ちいいわけではないが、なんだか不思議な気持ちになる。恥ずかしいのもあるが、それ以上に『しょうがないな』という気になる。
「あ……」
 乳首を指先で撫でられる。少しくすぐったい。
「ん……んっ」
 こりこりと摘まれたり、押し潰されたりする。くすぐったさに自然と声が洩れた。
(ちょっと気持ちいいかも……)
 初めての感覚に亜季は戸惑った。
 雪成の顔が降りてくる。胸に、その先っぽに、
「ひうっ」
 左胸を舌でなぞり上げられた。下から真ん中にかけて、唾液を染み込ませるように舌が伝い、登頂部で止まる。
 生温かい感触が先端を刺激して、亜季は思わず体を震わせた。
 雪成の手は休むことなく両胸を揉んでいる。少しずつ力が入っていくのが亜季にはわかる。決して乱暴な手つきにはならないが、それでも揉むというより揉みしだくといった方が正しいくらいには強い。
(雪成くん、本当に私を求めてる)
 緊張、不安、困惑、羞恥、そんなマイナス感情は確かにあるが、求められていると思うと少しも苦にならなかった。
 右胸から左胸に口が移動する。同時にくすぐったさも左に移る。
「あ……んん……」
 普段なら出ない妙な声が、亜季の口から吐息と共に洩れた。
 それは雪成も同じのようで、荒い息が乳房に強く当たる。
 互いに気が昂っている。亜季にはそれがいいのか悪いのか見当がつかない。
 ただ、
「うわっ」
 雪成が慌てた声を上げた。
 亜季が雪成の頭をおもいきり抱き締めたのだ。
「お、おい、亜季」
「ごめん、でも私っ」
 昂ったまま亜季は力を緩めない。
 愛しい気持ちが止まらない。胸の奥からせり上がってくる想いに、亜季は逆らえない。
「……怖いのか?」
 雪成が心配そうに尋ねてくる。
「違うの、よくわからなくて……」
 怖くはない。むしろ、
「たぶん……ううん、きっと、嬉しいの。求められて、愛されて、あなたのものになれることがとても嬉しくて、こうやって抱き締められるくらい近くにいることも嬉しい」
「……俺もだよ」
 雪成は亜季の腕を引き離した。
「でも少しだけ間違ってる」
「え?」
 雪成は頭を上げ、真っ直ぐな目で亜季を見つめめきた。
「お前が俺のものになるだけじゃない。俺も、お前のものになるんだ」
「…………うん」
 亜季は雪成の頬を両手で挟むと、そっと口付けた。雪成もそれに応え、二人は静かに目を閉じた。
 浅く添える程度の、しかし互いを支え合うような和らかいキス。

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