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幼馴染みなんてろくなものじゃない。
雪成は最近強くそう思う。
家族のように近い距離にいることが当たり前で、それがたまに鬱陶しい。
互いの生活リズムは丸わかりだし、何かあったらどうしても気にかけてしまうし、長い付き合いの分遠慮がなくなるし、そのくせ歳を取るにつれて昔の気安さをそのまま持ち込むことに若干の抵抗を感じるし。
ましてや、異性の幼馴染みなんて。
(意識するなって方が無理だろ)
朱に染まった夕暮れの帰り道を、二人は並んで歩く。
亜季の狭い歩幅に合わせながら、雪成は隣の幼馴染みのことを思う。
小さい体だ。この体によくもまあクラスの連中はいろいろなことを押し付けられるものだ。
亜季は決して弱い人間ではない。だからそんなことで潰れたりはしないだろう。
しかし、やはり側にいる者としては不安なのだ。
頼みごとを断らないというのは、美点であり欠点だ。
人が好すぎるために、それが亜季を苦しめないかと心配になるのだ。
当の本人はそんな雪成の気持ちをわかっているのだろうか。
「どうしたの? ぼんやりこっち見て」
亜季が雪成の顔を覗き込んできた。身長差が三十センチ近くあるため、見上げる形になる。
「なんでもない。晩飯のこと考えてた」
「うちは今日スキヤキだよ。いいお肉がお母さんの実家から届いたの。よかったら来ない?」
「いいよ。母さんが作ってくれてるはずだから」
雪成の家は共働きだ。両親共に遅くなることも多いので、そういうときは母親が前もって用意してくれている。
「そっか、残念。久しぶりに雪成くんと一緒に晩御飯食べられると思ったのに」
「……」
気安い、と雪成は思う。
亜季はこちらをそれほど意識していないように見える。だからこそ彼女はいつまでも幼馴染みとして変わらない。
雪成が好きな幼馴染みとして。
それはとても嬉しいことだが、同時に寂しかった。
こちらだけが意識して、ときに鬱陶しささえ覚えるのは寂しかった。
「……えっとね、大丈夫だよ」
不意に亜季が言った。
「何が」
「心配してくれてるのはわかるの。でもね、雪成くんが思うほど、私弱くないよ」
「……知ってるけど」
「だからね、私は好きで頼まれごとを受けてるわけだし、大丈夫だよ。安心して」
亜季は雪成を元気づけるように、にっこりと笑った。
そんなことはわかっている。
雪成は別にそこを心配しているわけじゃない。
雪成が心配しているのは、亜季の強さや弱さではなく、相手の悪意や好意の方だった。
亜季は人をいい者と信じているし、他人を信用しすぎている。
クラスメイト相手と言えども、それは危ういと思うのだ。悪意なら避けることもできるし断ることもできる。しかし好意だったら、亜季はそれを拒絶できるだろうか。
人の好意が必ずしも誰かのためになるとは限らないのに。
「……お前、なんか連帯保証人とかにさせられそうだけどな」
わりと本気で思ったことを口にすると、亜季はむくれた。
「ひどい! 私は真面目な話をしたのに、どうしてそんな茶化すようなこと言うの?」
「いや、結構本気で言ったんだが」
「なお悪い!」
頬を膨らませて怒る姿はどこかかわいい。
こういう姿を見せるのは雪成の前だけだろう。それはちょっと嬉しかった。
「嫌い、雪成くんなんて」
そっぽを向く幼馴染みに、雪成は苦笑した。