◇ ◇ ◇
文花の部屋はもちろん寒くて、ぼくたちはすぐに暖房のスイッチを入れた。
それからベッドに上がって布団の中に潜り込んだ。
文花がすごく寒そうにしているのは当たり前なんだけど、だからといって着替えようとはしないのが文花の凄いところだ。布団の中でぴったりぼくにくっついてきて、ひたすらじっとしている。まるで冬眠でもするかのようだ。部屋が暖まるまでリビングで待っていようかと提案したけど、首を振って反対された。
だからせめて、ぼくは彼女が少しでも寒くならないように抱きしめ返す。
キスをして、上から覆いかぶさって、服の上からいろんなところに手を伸ばす。胸を触り、背中を撫で回し、鎖骨に舌を這わせる。
白い肌が次第に赤みを帯び始めた。冷たかった体が熱を取り戻していく。
「こんなに冷たくなるまで無理して。風邪ひいたらどうするのさ」
「……嬉しくなかった?」
じっと見つめられてぼくは口ごもる。
そんなの。
「嬉しいに決まってるよ」
ぼくのためにしてくれたことだから。
だからこそ申し訳なくもあって。
手をつなぐ。脚を絡める。胸を押し付けあって、互いの鼓動を伝え合う。
どちらもどきどきしていた。
スカートの中に手を差し入れて、下着に触れる。リビングでいろいろ睦みあっていたせいだろうか、湿り気はだいぶ多い。さらに内側に指を侵入させると、ただれそうなほど熱かった。もう弄る必要はないようだった。でもすぐに手を抜くのもなんだかもったいない気がして、指の腹で入り口付近をこするようになぞった。文花の体がびくっと強張る。
しばらく愛撫に集中する。やや激しく中をかき回すと文花が顔をしかめた。刺激が強かったのか、おでこの辺りを手のひらで叩かれる。
「はやくきて……」
上ずった声の色っぽさにどきりとして、ぼくはぎこちなくうなずく。
初めてのことでもないのに、文花を抱くときはいつも心臓がうるさいくらいに鳴り響く。
ぼくも早くつながりたい。彼女の中に自らを沈めたい。
服は脱がさない。寒いのもあるけど、その格好のまま抱きたかった。
部屋の明かりを消すと、中心の小さな豆電球だけがオレンジの光を放った。
だんだん暖かくなってきた部屋のベッドの上で、ぼくらは真正面から見つめあう。
文花とつながった瞬間、その小さな体と溶け合うような一体感に包まれた。
「ん……はあっ……」
彼女の口から苦しげな息が漏れる。
その表情も一見苦しそうで、しかし上気する頬や焦点の合わない目が、決して苦痛ではないことを表している。
ぼくは体を揺り動かすようにして奥の感触を求めた。
文花の体もこちらの動きに合わせて動く。求めるように腰を押し付けて、ぼくのものを強く締め付けてくる。
根元まで埋め込むと、深い充足感を覚えた。
性感を刺激されて、その気持ちよさは格別なものがある。だけどその行為は気持ちいいだけじゃなくて、心も隅々まで満たされていく。
サンタ帽をかぶった彼女の頭が、快楽の波間で漂うように揺れている。オレンジ色の小さな明かりの中では鮮やかな赤服も黒っぽく見えるけど、彼女の綺麗な肌はそれと対比するように映える。
ぼくたち以外誰もいない家に、文花の喘ぎ声が響く。
それは大きなものではないけど、間近で聞くぼくの耳にはたまらなく刺激的で、ますます腰の動きを速めていく。あまり激しくはしたくないのに、止まらなくなる。
「こーすけ、くんっ……」
「文花……!」
互いに名前を呼び合って、引かれ合う磁石のようにまた体をくっつけて、唇を重ねながら体を何度も揺り動かして、快感はどこまでも高まっていく。このままずっと続けられそうな気持ちさえ覚えた。
でもそれはやっぱり錯覚で、終わりは必ず訪れる。
彼女の中で精を吐き出すと、文花が嬉しげに笑った。
今日はずっとその顔を見せてくれる。
ぼくの好きな顔を見せてくれる。
だから、それに答えるようにぼくも微笑みかけた。
行為が終わっても離れがたくて、ぼくらは抱き合ったままでいた。
頭を撫でながら彼女の頬にキスをすると、文花も同じように返してくれた。唇の柔らかい感触がくすぐったい。あまり言葉はいらない気がした。
一度だけ「好きだよ」と囁くと、言葉の代わりに腕の力を強めて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
それだけでなんだか満足してしまったのだけど。
離れようとすると、文花がそれに合わせるように体を起こした。
「え」
脱力していたぼくの体は、不意を突かれたように簡単に文花に押し倒された。
「ふ、文花?」
サンタ服の彼女はにやりと笑って一言。
「まだ、できるよね?」
……まあ、その、時間が経って回復すれば、ハイ。
文花はぼくの股間に顔をうずめて、先端を舌先でちろちろと舐め始めた。
そんなことをされるとすぐに復活してしまうのですが……。
だんだん硬さを取り戻し始めたそれを見て、文花は薄明かりの下でいっそう笑みを深めた。
◇ ◇ ◇
目を覚ますと、枕元の時計が冷酷に現在時刻を表示していた。
「ふ、文花! まずい、もう朝だよ!」
時刻は10時前だ。夕べ送られてきたメールには、たしか10時までは戻らないと書いてあったけど、それはつまり早ければ10時には帰ってくるってことですよね?
慌ててベッドを抜け出して服を整える。文花はそんなぼくを尻目に慌てた様子もなく、寝ぼけ眼をこすっている。
もう一回呼びかけてちゃんと目を覚まさせようか。そんなことを思っていたら、文花はのんびりとした動作で携帯を取り出した。ぽちぽちとボタン操作を済ませて再び仕舞うと、大きくあくびをした。
「今メール打ったから大丈夫」
見せられた送信メールにはこう書かれていた。
『昼食を済ませてから帰ってきてください。お父さんにはお昼の準備をしていませんとかなんとか適当に言っておいて』
つくづくお父さんの扱いが悪いなあ……。
嫌われているかもしれないけど、ぼくは正直文花のお父さんに悪い印象は持っていない。むしろその扱いの悪さには同情してしまう。
「文花。お父さんとは仲良くしないとだめだよ」
「……耕介くんを認めてくれるなら考える」
それは当分期待できないかもね。
文花は乱れた服を軽く直すと、ベッドを降りてこちらに向き直った。
部屋の真ん中で正対すると、文花はにっこり笑って一言。
「メリークリスマス。耕介くん」
そっか、昨日はイブで、今日がクリスマスだったね。
「メリークリスマス。文花」
ぼくも同じように笑うと、文花は祝福するように抱きついてきた。
この、ぼくだけの小さなサンタクロースと一緒に、これからデートに行こうと思う。
イブは終わったけど、クリスマスはこれからだから。