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特別なことは何もしなかった。
ソファーに座って、DVDを観ながらおしゃべりして、いつもよりも多弁な彼女の様子になんだか嬉しくなって、お互いの手をそっと握り合って。
ご飯を温め直して、それを一緒に食べて、そのあと文花の作ったケーキを切り分けて、お腹一杯になったところでプレゼントを渡して。
その間、ずっと文花の笑顔を見られたことが、ぼくは一番嬉しかった。
幸せな気分に浸っていると、時間の感覚が狂うらしい。時計を見るといつの間にか10時を過ぎていた。
「あ、そろそろ帰らないと……ごめん、冗談だって」
途端に文花に睨まれた。
いきなり怖い顔つきに変わったので、ぼくは幾分身を引いた。
「え、えっと……泊まっていってもいい?」
ご両親が戻ってくるんじゃないかという危惧を抱いているのはぼくだけなのだろうか。
文花はなぜか得意げに胸を張り、携帯電話の画面を突きつけてきた。
受信メール画面だった。
『今日はお泊りしてきます。最低でも朝の10時までは戻りません。幸運を祈る。少し早いけど、メリークリスマス』
お母さんからのメールだった。エールだった。
時間が半日保障されるや、文花は即座に動いた。
ぼくの肩に両手を置くや、そのままソファーの上に押し倒してきた。
抵抗する間もなく押さえつけられる。そのままぼくのお腹の上にちょこんと腰掛けた。前にもこんな体勢になったことがあるような。
前と違うのは服装だ。サンタ服はそのままなので、もちろんぼくの体の上にある臀部はミニスカに覆われていて、でも大腿部は全然隠れてなくて、ちょっと動けばすぐにも中が見えてしまいそうだった。
文花が妖艶な笑みを見せる。ポンチョを脱いで、むき出しの肩を明かりの下にさらすことで、肌色面積が一気に増えた。そのまま文花が上体を傾けて、唇をこちらに寄せてくる。眼前に迫る桜色のそれを、ぼくは魅入られたように見つめた。
唇との距離がゼロになり、柔らかい感触が口元を支配した。
最初は撫でるように優しく、次第にむさぼるように激しく、口唇が互いを求め合う。
たまらない気持ちになり、ぼくは彼女の小さな体を拘束するかのように強く抱きしめた。
かき立てられた情欲に突き動かされているせいか、ちょっと優しくできそうにない。でもそれは文花の方も同じなようで、積極的に体を密着させてくる。
舌を絡めると、心地良さが一気に増した。
文花の両腕がぼくの背中に回されて、胸が押し付けられた。このサンタ服は生地が薄めで、伝わる感触は直のそれに近い。そもそも肩から胸元、脚と露出部分が多いために、ほとんど裸に近いんじゃないかとさえ思う。それ、どう考えても外に出られないでしょ。
こんなの着てたら間違いなくお父さんに怒られる。
でもこの格好は、ぼくの前以外では絶対にしないだろう。文花はぼくの前でだけ大胆になる。それがくすぐったくもあり、嬉しくもある。
このかわいいサンタを、一晩中愛したい。できればこっちがリードする形で。このマウントから脱出しないとそれは叶わないけど。そして脱出は無理だと前回の反省からわかっているけど。
今日くらいは別にいいか、とぼくは全身の力を緩めた。文花のしたいようにさせる。
そう思っている間にも、文花の手は背中から首筋に移動して、こちらを攻め立ててくる。指先が耳の辺りにたどり着き、耳たぶをくすぐった。唇が離れ、今度は顎先に軽く口付けをする。そのまま下に移動して、喉元を舐め始めた。
こ、これって、もしかしてだけど、普段ぼくがやっていることをそのままやり返されてる?
文花の真っ白な肌に舌を這わせると、彼女はくすぐったそうに震える。しつこく続けるとだんだん上気して、微かながら肌が赤く色づいてくるのだ。その変化に合わせるように文花の性感も高まっていって、それを見ながらぼくも気を昂らせる……というのが比較的よくあるパターンなのだけど、今日は立場が逆だ。攻められているのはぼくの方だ。
耳元を撫でる白い指。鎖骨にかかる熱い吐息。肌を伝う舌は唾液をまぶすように妖しくうごめき、それでいて少しも不快ではない。
そんなことをされると、火がついてしまう。いや、とっくについてしまっているけど、さらに火勢が増してしまう。
ぼくはお腹に乗っているミニスカに手を伸ばした。赤い生地に包まれた丸みがすぐそこにあるのに、触れずにいるなんてもったいない。
が、
「いっ」
ぱしっと左手ではたかれた。
「文花さん?」
ふふんと挑戦的に笑う。
おとなしくしていろということだろうか。それともやれるものならやってみなさいということだろうか。両方かもしれない。
今度は胸元に手を伸ばす。これも空中で打ち落とされた。
焦らされるのは不慣れなんですけど……。
文花は腰を動かして後ろの方に移動する。お腹からどいてくれるのかと思いきや、今度は下腹部の辺りに腰を落ち着かせた。
その位置は非常にまずい。理由なんて説明不要だ。全体重を乗せているわけではないので苦しくはないけど、精神的には窒息しそうなほどに苦しい。力任せに身を起こして無理やり押さえつけたくなる。文花の顔を真正面から見たらきっとそんなひどいことはできないだろうけど、そんな気持ちになるくらいぼくの気は昂っていた。
たたみかけるように大事な部分を撫で回し始めるし。
「文花」
ぼくの呼びかけに手を止める。
「この体勢をひっくり返すことなんてできないと思っているんでしょ」
余裕の笑み。
「そうでもないよ」
ぼくは横に転がるようにしてソファーから滑り落ちた。
驚いた文花が慌てて腰を浮かした。その隙を突いて、腹筋を使って上体を一気に起こした。文花はぼくの体に腰を乗せながら、重心移動によってこちらの動きを封じていたのだけど、バランスを崩してしまえば当然コントロールできなくなる。
身を起こすと、すぐ目の前に文花の顔があった。
やられたとでもいうように、苦笑いを浮かべている。
ぼくも笑った。
ちょん、とかわいい唇にキスをする。
文花がくすぐったそうにして、頭を肩に乗せてきた。
「部屋、行こ」
短いささやきにうなずいて返す。
でも、と立ち上がりながらふと思った。
うまく乗せられた気がするのはなぜだろう。