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後輩サンタとクリスマスと・3


 クリスマスイブ。
 純一は風見とともに夕方の街に来ていた。
 目的は風見のアドバイスを受けてのプレゼント購入だ。毎年幼馴染みの女の子にプレゼントを買っているという風見なら、そのあたりの具合というか案配がわかりそうに思った。
「けど……」
 純一は周囲を見回す。クリスマス色に彩られた街中には当然ながらカップルが多く、居心地が悪かった。
「なんでわざわざイブを選んだ」
「ぼくもプレゼント買わないといけないんだよ」
「甘利との約束は今日だろ。当日に買ってんのかいつも」
「高いんだよ服は」
「はあ?」
 風見が言うには目当てのコートが五万円くらいするらしく、直前までバイトをしていたという。そういえば待ち合わせ場所はバイト先に近いコンビニだった。
「さっきまでやってたのか、バイト」
「ミドリがいない分、いつもより受け持つ量多かったんだぞ」
「悪い、イブとクリスマスは空けるつもりだった」
「まあ終わったからいいけど。お金もちゃんともらえたしね。無理言って手取りにしてもらったよ」
 二人はとりあえず洋服店に向かう。
 コートを買うと言っていたが、服に無頓着な純一には五万円など考えられない金額だった。それとも、それくらいが当たり前なのか。
「なあ、女の子って何をあげれば喜ぶんだ?」
 風見は首を傾げた。
「さあ?」
「さあ……って、お前だけが頼りなんだぞ」
 風見は軽く頭をかいた。
「人それぞれだよ。人によってはガラクタでもいいかもしれないし、どんなに高価なものでも満足しないかもしれない」
「じゃあどうするんだよ」
「ぼくはその人に合いそうなものを選んでる。今回はたまたま見掛けたコート。白いのが似合うと思ったんだ」
「……」
 なんだかあまりアドバイスになってないような気がする。若干ノロけが入ってないか。
「うーん、そうだな……あえて言うなら実用的なものの方がいいかな?」
「実用的?」
「服とか靴とかバッグだよ。時計やマグカップなんかもいいかも。そういう身近で役立つものの方が喜ばれるかもね」
「へえ」
「高すぎると相手に気を遣わせてしまうかもしれないから、値段も多少考慮した方がいいかな。宝石とかは避けた方が無難」
「なるほど」
 純一は感心して頷いた。急に役立つアドバイスを聞かされたような。
「手袋とかマフラーは?」
「それもアリだと思うよ。ベタだけど大きなハズレにはなりにくいし」
 手持ちの金は二万円。高価なものは無理だが、それなりのものは買える。
 いろいろ思案していると、いつの間にか目当てのブティックに辿り着いていた。表通りから少し外れた場所だった。
 店内に入ると、若い女性客ばかりで賑わっていた。居心地の悪さがさらに高まる。
 風見が奥の店員と話をする間、控え目ながら店内を見て回る。ここでプレゼントが見つかるなら手間もかからないのだが。
 由芽はあまりアクセサリーを身に付けたりするタイプではなさそうなので、セーターやコートといった衣服を中心に探してみる。
 ミンクのコート、十七万八千円。
 ……………………。
 見なかったことにする。レジカウンター近くのセーターに目を向けてみる。
 ホワイトカシミアのセーター、二万五千円。
 無理だ。買えない。
 よく見るとそれなりにリーズナブルな値段の服もけっこうあったが、純一はいまいちピンとこなかった。
(後羽に合いそうなもの……ね)
 しばらく店内をぶらついたが、結局何も選ばなかった。
 風見のところに戻ると、大きな袋を手に提げている。どうやら買えたようだ。
「何かいいもの見つかった?」
「いや」
「じゃあ他のところも行ってみようか。服だけじゃなく、小物屋とかも」
 風見は目当てのものを買えたためか、どことなく嬉しそうだ。
 店を出て、表通りに戻る途中で純一は尋ねてみた。
「嬉しそうだな」
「そりゃ、お金貯めてお目当てのものがようやく買えたんだから、嬉しいに決まってるよ」
「お前のじゃないんだぞ」
「プレゼントでもなんでも、嬉しいことに変わりはないよ」
 簡単に言ってのける友人を、純一は呆れたように見つめた。
 おそらくこいつは相手のことをよくわかっていて、自分みたいに思い悩んではいないのだろう。純一は由芽のことを考えても、はっきり自信を持って捉えることができない。
 もちろんまったく思い悩んでいないわけではないだろうが、相互理解の深度が違いすぎるように思えた。
(俺ってホントダメだな……)
 空を見ると薄暗い雲が全体を覆い始めていた。


 それから二人は何軒かの店舗を回った。
 別の洋服屋はもちろん、マスコットグッズ店やアクセサリー店も一応回ったが、純一はなかなかプレゼントを選べなかった。なんというか、どれも同じに見えてしまうのだ。
 何を買えばいいのか迷いに迷った。もう適当に決めてしまおうかとも考えたが、そういうわけにもいかず、時間だけが無駄に過ぎていった。
 もう一度考え直す。果たして由芽に合うプレゼントとはなんなのだろうか。
 純一は熟考する。自分の中での由芽の印象とはなんだろう。
 一つしかなかった。一年前のサンタ姿。
 あのとき小さな手でケーキの箱を差し出してきて、その後に浮かべた笑顔はとても魅力的だった。
(小さな手だったな……素手だった)
 きっかけは単純だった。イメージがプレゼントの中身を一気に固めていく。
「よし、決めた」
「え?」
 いいかげん疲れていたのだろう、風見が気のない声を漏らした。
 純一は悪い、と一言謝り、最初のブティックに戻ることを告げた。


 プレゼントをようやく購入して、待ち合わせ場所のコンビニに戻ってきたときには、日はすっかり落ちていた。
 ちらほらと雪が降る中時刻を確認する。午後8時だった。
「悪かったな、遅くまで付き合わせてしまって」
「いいよ、紗枝にはメールしたし。それより、うまく渡せるといいね」
「頑張るよ。不安はあるけどな」
 果たしてこれでよかったのだろうか。純一は手元の袋を自信なく眺める。
 コンビニ前のバス停には何人かの人間がいたが、混んではいなかった。ただ、これから来るバスの中は満杯だろう。雪も降ってきたし、ダイヤに乱れが生じるかもしれない。
 純一は白い息を虚空に向けて吐き出した。粉雪と湯気が入り混じるように合わさり、消える。
 その虚空の先に、何かが見えた。
(!?)
 道路を挟んで向かいの民家の屋根。そこで小さな人影が動いていた。
 音もなく歩道に降り立つ。その姿はやはりサンタの格好だった。
 気配を消すようにあまりにさりげない動きだったが、格好が格好なのでさすがに目立つ。純一以外の人間も少女サンタに気付いたようだった。
 サンタはそ知らぬ様子でそのまま歩道を歩いていく。
 純一は居ても立ってもいられなくなり、風見に一言、
「俺、用ができた」
 と耳打ちするや、全速力で駆け出した。
「え? ちょっと、ミドリ?」
「早く甘利のところに行ってやれー!」
 大声でそれだけ叫び残すと、純一はもう振り返らず、少女の後を追った。

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