◇ ◇ ◇
すべてを吐き出し終えると、正志は荒い呼吸をしながら沙織の顔を見つめた。
沙織は虚ろな目でしばらく放心していたが、正志の視線に気付くと柔らかく微笑んだ。
「どう、だった?」
「気持ちよかった……」
「私も」
正志は沙織の中から性器を引き抜いて体を離した。
避妊具の中はドロドロだ。正志は逸物から外して口を縛る。それをゴミ箱に捨ててからティッシュを取り、汚れた部分を拭き取っていった。
沙織は疲れたように体を投げ出している。
「立てない……」
腰が抜けてしまったのだろう。正志はティッシュを捨てると、沙織の背中に腕を回して抱き起こした。
「ありがとう」
「体はどう? 痛くない?」
「平気。ちょっと疲れたけど」
沙織はふふ、と微笑むと、正志の体に身を寄せた。
「あーあ、とうとう正志くんとしちゃった」
「四日前にしてるんだけどね」
「そんなの知らない。憶えてなーい」
明るい口調で返す沙織。
その顔は喜びに満ちていて、とても嬉しそうだった。その笑顔を見るだけで、正志も幸せな気持ちになってくる。
「正志くん、やっぱり温かいよ」
不意に沙織が言った。
「え?」
「体。温かいよ。あなたが自分をどう思っていても、それは確か」
思い出す。観覧車内で呟いた一言を。
温かくなんか──
「沙織さんの温かさが移ったのかも」
正志はそう言って微笑んだ。
「……元気出た?」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして」
沙織は笑顔で頷いた。
傷つけたことは確かだ。
でもそれを取り返せるなら、正志は全力で取り返したいと思う。
三原正志は、天川沙織が好きだから。
「お風呂、また借りていい? 体ベトベトで」
「あ、うん」
うまく立てない沙織の体を正志が支える。二人は部屋を出て一階へと下りた。
そのとき、
「ただいまー」
玄関から繋がるリビングのドアが開いて、正志の母親が現れた。
「……」
「──」
二人は裸でくっついたまま固まった。
言い訳など不可能だ。
母親はんー、と首を傾げると二人に向かって言った。
「保健体育の勉強?」
「イヤミかよ!」
正志が反射的に突っ込んだ。
「いや、最近の家庭教師は進んでるから」
「マジボケ? 嫌がらせ?」
母親はクスリと笑う。
「沙織ちゃん、とりあえずお風呂入ってきなさい。準備してあげるから」
「もう沸いてるよ」
「あらそう。ならごはん食べていきなさい。話はそのときに聞くから」
「は、はい」
「正志、沙織ちゃん連れていったらすぐにこっち手伝いなさいよ」
「わかってるよ」
母親が台所に消えるのを見届けて、正志はため息をついた。
「最悪なタイミングだ……」
「うん。でもおばさん、あんまり怒ってなかったね」
「怒るわけないよ。母さん、沙織さんのこと大好きだから」
沙織はくすぐったそうに笑う。
「じゃあ家族公認だね」
「それは早すぎると思う」
「そんなことはないと思うけど。……正志くん」
ん? と顔を上げると、沙織がじっと見つめてきていた。
何、と訊く前に沙織は体を離して、正志の前に相対した。
「これからもよろしくね」
嬉しげに宣言する恋人の笑顔に、正志も笑って頷いた。