◇ ◇ ◇
小道具が効きすぎた。
沙織は十本目のビールを空にすると、テーブルに突っ伏してすやすやと眠ってしまった。
幸い料理の載った皿は既に片付けていたので、和風パスタやけんちん汁に顔面ダイブを決めることはなかったが、このまま放っておくわけにもいかない。正志は空き缶を片付けると、奥の和室に布団を敷いて沙織の寝床を準備した。それからダイニングに戻って、沙織を揺り起こした。
「沙織さん起きて。こんなところで眠ったら風邪ひくよ」
「ん……キリンさん、どこ……?」
「まだ呑み足りないの? ほら、寝惚けてないで」
「キリンさん、お空飛びたいの? 首を回すの首を……」
「いや、それ首の骨折れるから。じゃなくて沙織さん、早く起きて」
「んー……?」
沙織が寝惚け眼を向けてくる。
「あー、正志くんだ」
「起きた? ほら、布団用意したからそっちに移ろう」
正志が助け起こすと、沙織は嬉しそうに体をくっつけてきた。
肩を貸して歩かせる。沙織は素直に歩いたが、どこか必要以上にもたれかかってきたため、正志はバランスを取るのに苦労した。ビールの臭いと体の柔らかさに少し困った。
なんとか和室まで連れてくると、正志は沙織を布団の上に横たえた。
沙織はにこにこ笑って正志を見ている。
「正志くん」
「うん?」
「だっこー」
そう言うと、沙織は体を起こして正志に抱きついてきた。
「うわあ!」
正志は驚きの声を上げた。
「えへへー」
「さ、沙織さん」
ノースリーブの薄い布地を隔てて、沙織の胸が当たる。
「正志くん大好きー」
「……」
どう反応したらいいのやら。正志は困り果てた。
と思えば、今度はどこか憂いを帯びた表情で見つめてきた。
「正志くん……」
「な、何?」
正志は少したじろぐ。
「慰めてあげる」
「え?」
次の瞬間、正志は沙織に無理やり押し倒された。
そして有無を言わさぬ速さで唇を奪われた。
「──」
正志は突然の事態に目を白黒させた。
「ん……んむ……」
沙織は喋らせないかのように唇を押し付け、さらに己の舌で正志の口内をなぶった。
酒の臭いにどこか甘い香水の匂いが入り混じる。不思議と正志は不快に思わなかった。
沙織はゆっくり口を離すと、小さく微笑した。
「沙織さん、どうして」
年上の彼女は答えない。代わりにノースリーブの服を脱ぎ、ジーンズを躊躇いもなく下ろす。
下着姿になった沙織は、さらに上のブラジャーも外した。
形の整った真っ白な乳房が目の前に現れ、正志は思わず顔を逸らした。
「沙織さん、いくらなんでも酔いすぎだよ……」
「あは、そうかな」
「そうだよ、こんなの……沙織さんらしくない」
「私は正志くんを慰めたいだけ」
頭がくるくると狂いそうになる。
「そんなことしなくていいから」
「……じゃあ、私を慰めて」
「……え?」
言葉の意味がわからず、正志は沙織を見返す。
沙織はそんな正志の右手を取ると、自分の胸に押し付けた。
「さ、沙織さん」
初めて触った異性の胸はありえないほど柔らかく、正志は息を呑んだ。
「自慢のバスト88ぃー」
「沙織さん!」
耐えられなくなって、正志はついに叫んだ。
沙織はその声に驚いたようだったが、ぶんぶんと首を振った。
「失恋って、辛いんだよ……。男だけじゃ、正志くんだけじゃないんだから」
「……」
「私だって辛いの。悲しいの。耐えられないの。だから、お願い……正志くんだけなの……」
「……沙織さんも、失恋したの?」
沙織は小さく頷く。
正志は閉口した。
「正志くんは何もしなくていいから……私が勝手に正志くんを襲うだけ。悪いのは私」
酔っているのか、いないのか、沙織はタガが外れているようだった。
その分、より正直な気持ちを吐露しているように、正志には思えた。
そんな彼女を拒絶することなど、彼には──
沙織は正志の股間を愛しげに撫で回す。
すぐに反応してしまう男の性に正志は情けなく思ったが、沙織は嬉しそうだった。
ズボンを下ろされる。慣れない手つきを見ると、沙織も経験は少ないのかもしれない。対する正志は経験0だが。
トランクスごと強引に下ろされた。少年のものが露になると、沙織はにっこり笑う。
「凄い……正志くんも成長してたんだね」
沙織は手を伸ばし、肉棒を優しく握り込んだ。その刺激に正志は微かに呼気を洩らす。
「あの……ぼく、初めてで、その……」
「大丈夫……お姉ちゃんに任せて」
沙織は性器をまじまじと見つめる。
やがて、その先端をおもむろにくわえた。
強烈な刺激だった。正志は腹に力を込めて、未知の快楽に耐える。
沙織の美しい口元から延びる赤い舌が、男根をぬるりと這った。当人以外にはグロテスクに映るだろう肉の竿を、嫌悪することもなく沙織は舐め尽くす。
感覚的にも視覚的にも正志には刺激が強かった。こんなことをずっと続けられたら、あっという間に達してしまう。
しかし沙織は、その様子を感じ取ったのか、突然舌での愛撫をやめた。
「沙織さん……」
「じっとしてて。私がしてあげるから」
沙織は残った下着を脱ぎ捨てると、正志のシャツを捲り、腹の上にまたがった。お尻の感触が柔らかい。
沙織は微笑とともに腰をずらし、秘部を肉棒に当てがう。
そして、そのまま腰を下ろして、正志のものをずぶずぶと呑み込んだ。
「ああぁっ!!」
一際高い叫声が上がり、正志は一瞬怯んだ。
沙織は荒い息を吐き、目に涙を浮かべていた。
正志は唖然とした。今の反応。気持ちよくは見えなかった。むしろ苦痛にしか、
「沙織さん、まさか……」
「ご、ごめんね。さすがにちょっと痛いよ」
沙織は涙を拭って無理やり笑ってみせた。
経験が少ないどころじゃない。沙織は経験がなかったのだ。
正志は知らないまま、彼女の処女を奪ったことになる。
「沙織さん、どうしてこんな」
沙織は笑顔を浮かべたまま答えた。
「だって、正志くんを慰めたかったから」
「そんな……」
「それに──初めては、好きな人にあげたかったから」
正志はその言葉に固まった。
好きな人。
それは──そんなことって。
沙織は少しずつ腰を動かしていく。
痛みに耐えながら、それでも懸命に刺激を送ろうとしてくる。
正志は何も考えられない。頭が混乱している。
正志の目の前では、年上の幼馴染みが必死に体を動かしている。
「あっ……あんっ! あっ、んん、まさ……し、くん、あっ」
形のいい胸が喘ぎに合わせるように揺れている。
刺激が興奮を生み、正志の脳内は快感で弾けそうになる。
しかし心は、それとは逆に倒錯しそうだった。
それでも限界はやってくる。前戯の寸止めがそれを早めてもいた。
「正志くん……私で、イッて。私を感じて。私を──」
「くう──」
正志は溺れそうな快楽から理性の一部を取り戻すと、沙織の体を両手で持ち上げて、中から己を強引に引き抜いた。
その瞬間射精が訪れ、正志は自分の腹の上に精液を巻き散らした。
「あは、すごいね……」
沙織は感嘆の声を洩らすと、正志の上に折り重なるように倒れ込んだ。