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彼女の聖夜・1


 12月24日。
 その日はもちろんクリスマスイブで、ぼくは彼女の青川文花と一緒に過ごす予定だった。
 具体的には文花の家でクリスマスパーティーをすることになっていた。パーティーと言うからには、文花のご両親や友達(以前までクラスメイトとの接触を避けていた文花だけど、最近は少しずつ仲のいい友達が増えてきたみたいだ)と一緒に、みんなで楽しくわいわい騒ぐのだろう。
 二人きりで過ごしたいという気持ちはもちろんある。でもお互い家には家族がいるし、場所を確保するのは正直難しかった。まあクリスマスにホームパーティーというのも高校生らしくていいと思う。
 そんなことを考えながら、ぼくは文花の家に向かって歩いていた。今月に入ってから急に寒さが厳しくなり、日が沈んでからの気温は氷点下に達することもある。今日のぼくは生地の丈夫な皮製のコートを着込み、手には手袋を着用、ポケットにはカイロを忍ばせて、寒さ対策は万全だ。しかしそれでもちょっと寒い。文花の家は暖房が効いているだろうか。早く暖まりたい。白い息を吐きながら道を急ぐ。時間はまだまだ余裕があるので急ぐ必要はないのだけど、寒さのせいか知らず知らずのうちに早歩きになってしまっていた。
 文花の家に着いたのは、夕方の5時くらいだった。6時から始めるという話だったけど、手伝いをするために早めに家を出たのだ。文花のお父さんにはどうもいい印象を抱かれていないようなので、点数稼ぎという目的もあったりする。すみません、小さい人間で。でも恋人の家族には良く思われたいのが人情じゃないだろうか。
 玄関先で、改めてその外観を見上げる。煉瓦色を基調としたちょっと雰囲気のある洋風の造りは、文花のお母さんの要望で建てられたという。周りの家が平屋の日本家屋ばかりなので、2階建ての家は余計に目立った。
 ここに来るとどきどきする。彼女の家に来てどきどきするのは、まったくもって自分の不埒な想像というか男の子的な欲望のせいなんだけど、困ったことに文花がそれをわかった上でいろんなアプローチを仕掛けてくるために、ぼくはそれを抑制できなくなることがある。特にこの家に上がったときは、こう、いろいろ不健全なことになってしまう。前にここに泊まったときはやりすぎちゃったなあ……でも気持ちよかったなあ……。
 気づけば玄関先でにやついている男が1人。
 いけないいけない。思わず緩んでしまった頬を叩いて表情を元に戻してから、ぼくは玄関のベルを鳴らした。
 ぱたぱたと足音が近づいてきた。鍵が外れる音がして、ドアが開く。
「――」
 中から現れたその姿を見て、ぼくは呆気に取られた。
 赤と白の二色が躍るのは、運動会のようなスポーツイベントの時だけだと思っていたのに。いや、紅白もあるか。格闘技ファンのぼくは歌合戦は観ないけど。いや、そうじゃなくて。
 鮮やかな赤と白で構成された服が、小さな体を包んでいる。
 ふとももがむき出しの赤いミニスカート。
 白いもこもこが特徴的な赤いポンチョ。
 頭にはこれまた赤い三角帽子が乗っかっていて、その先には柔らかそうな白い毛玉がついている。
 青川文花は固まってしまったぼくの顔をおもしろそうに覗き込んできた。
 サンタ服である。
 ミニスカである。
 主に生脚の肌色が目立つその服を、果たして本物のサンタクロースが着るかどうかはおいといて、文花にその格好はとてもよく似合っていた。いや、ホント、すっごくかわいいです。
 見とれていると、文花はどこかいたずらっぽい表情でうなずき、ぼくを中に入れてくれた。たぶん驚かせたかったのだろう。すごく満足げに見えた。
 リビングに足を踏み入れると、冷えた体を暖気が優しく包み込んだ。その暖かさにほっとしながらコートを脱ぐ。文花がそれを受け取ってハンガーにかけてくれた。
 すでにパーティーの準備は整っていた。リビング中央のテーブル上にはローストビーフやらサラダやらスープ鍋やら、いろいろな料理が並べられていて、テレビの横にはクリスマスツリーが飾られている。他の人間はいない。
 ちょっと準備が早すぎるんじゃないだろうか。ぼくは文花に尋ねた。
「お父さんとお母さんは? 先に挨拶しておきたいんだけど」
 すると文花はなぜか不敵な笑みを浮かべた。
「……え、なに?」
 文花は答えず、ぼくの頬に手を伸ばしてきた。
 まだ少し冷たい頬を、文花の温かい手がそっと撫でる。
「今日は、二人きり」
 ……はい?
 暖房器具の静かな音と、ぼくたちの息遣いだけが聞こえる。
 逆に言えば、それ以外の音は何も聞こえない。
 他の部屋に誰かいるなら、その音が聞こえるはずなのに。気配すら感じない。
「……もう一回聞くけど、お父さんとお母さんは?」
 文花はまたうっすらとした笑みを浮かべた。
 その顔で、大体のところは察しがついたけど、一応事情を説明してもらった。

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