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縁の情 神守の当主・6


 それは、行為が終わって一分後のことだった。
 守はまだ依澄の秘裂に己を埋め込んだままでいた。
 そのとき、依澄が荒い息を抑えて右手を動かした。
 そして守の頭に掌を置くと、小さく撫で回した。
 守は突然の依澄の行動にきょとんとなったが、疲れていたので好きにさせた。
 疲労で眠くなりそうな守の耳に、綺麗な声が囁く。
「ありがとう……特別に見せてあげます」
 そう、聞こえた。
 何を、と問おうとした守の目に、不思議なものが飛び込んできた。
 依澄の服が急に淡い光を放ち始めたのだ。
(え?)
 沸き起こる疑問を無視して、依澄の服は月のように白く輝く。
 次の瞬間、ブラウスから抜け出るように、『女性の影』が現れた。
「!?」
 驚いて依澄から体を離す。しおれた肉棒が抜け、秘唇から白い液がこぼれる。
 女性の影は長い髪をなびかせ、依澄に小さく頭を下げる。依澄は微笑み、控え目に手を振った。
『安らかに……』
 特別な響きのこもった言葉を女性に届かせる。それを聞いた女性の影は、やがて空間に拡散するように消えていった。
 守は呆気に取られてまばたきすら忘れた。
「あの人はこの服に縛られていた霊です」
「……霊?」
 依澄は頷き、そして話した。
 あの女性は恋人に裏切られて半年前に殺された人物であること。
 成仏出来ずに生前お気に入りだった服に縛られてしまったこと。
 それを解放させるために、依澄が依頼を受けたこと。
 依澄が服を着て、自身の魂と繋ぐことで感覚を共有させたこと。
 守と一日を過ごすことで、依澄の感覚を通して今一度人の温もりを知ってもらおうとしたこと。
 そして── 依頼は達成された。
 ぽつぽつと小さな声で話し終えた依澄は、服を着直してから、守に深々と頭を下げた。
 守は呆然と虚空を見上げていたが、やがてがっくりと肩を落とし、のろのろと服を着始めた。
「結局……依澄さんに乗せられた、ってこと?」
 依澄は申し訳なさそうに顔を曇らせる。
「デートで十分だと思っていたんですけど、甘かったです。でも、あの方を救いたかったんです」
「だからって、処女まで失うことないのに……」
 気持ちよかったし、役得といえばそうだが、何か釈然としない。
 依澄は微笑する。
「守くん以外の人に、初めてなんてあげたくないですけどね」
「……本気で言ってる?」
 さあ、とからかいの笑みを向けてくる依澄。
 守は落胆のため息をついた。
「……帰ります。そろそろ」
 守はいきなりの言葉に顔を上げた。てっきり泊まるものだとばかり思っていたが。
「今から?」
 頷く依澄。元の無口に戻り始めていた。
「まあ時間はあるから今からでも大丈夫だろうけど。駅まで送るよ」
 しかし依澄は首を振った。
「でも、」
「ゆっくり休んで下さい。それと、妹を……依子をよろしくお願いします」
 有無を言わせない口調に、守は仕方なく頷く。
「それじゃ、また。次は隠し事なしで来てほしいよ。まんまと引っ掛かったからね」
「……」
 依澄の目が不意に細まる。
 その様子にどこか気圧されて、守はひきつった笑みを浮かべる。
「な、なに?」
 依澄がちょいちょいと手招きした。嫌な予感がしたが、とりあえず言われた通りに近付く。
 目の前まで寄ると、依澄は機嫌の悪そうな目を向けてきた。
 瞬間、猫手でまた額を小突かれた。
「……」
 どう反応すればいいのかわからず、結局固まった。
「……人を嘘つきみたいに……」
 ぼそぼそと呟かれ、守は意味もなく焦る。
「いや、別に嘘つきだなんて思ってないって。ただ、ちょっとしてやられたなぁ、って」
「……」
 気まずい沈黙が流れる。
 次の瞬間、困り果てた守の頬に依澄は軽くキスをした。
「え?」
 驚いて飛び退る守に、依澄はにこりと微笑んだ。
「好きです。その気持ちだけは、本当ですよ」
 浮かべた微笑は夜月のように魅力的だった。

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