続・手をつないで・2
◇ ◇ ◇
高校生になってから早いもので、もう3ヶ月半がすぎました。
期末テストも終わり、もうすぐ夏休みに入ります。
中学までの私は、今よりもずっと暗い性格で、友達もいませんでした。でも高校に上がってからは、自分からクラスメイトと接するように努めて、その甲斐あってか、同じクラスの莉夢(りむ)ちゃんや高上さんなど、仲のいい相手が何人かできました。
そして、いりすちゃん。
春先の事件をきっかけにできた小さな友達は、今ではもうかけがえのない存在になりました。
そしてその子と友達になるきっかけを作ってくれた、クラスメイトの白草裕太くん。
彼もまた、大切な友達です。
ふたりと出会えたこと。それは私にとって、非常に大きな出来事でした。
登校の準備をしながら昨夜のことを話すと、いりすちゃんは怪訝そうにむー、とうなりました。
いりすちゃんは幽霊です。ほかの人たちとは一風変わった、私の1番の友達です。
私の体には魂が入る隙間のようなものがあるらしく、いりすちゃんは普段私の体の中にいます。そのため常に私たちは一緒の時間をすごしていますが、特に不便はありません。いりすちゃんが男の子だったらこうはいかなかったと思います。
『……それ、おかしくない?』
制服に着替えて、姿見で軽くチェックしていると、いりすちゃんが疑問の声をあげました。
「え?」
『この家って、あいつが結界張ってくれているんでしょ?』
あいつとは、白草くんのことです。いりすちゃんはなぜか白草くんに対して、いつもきつい言い方をします。
『見間違いとか気のせいじゃなかったら、この家に何かが侵入していたってことになるわけで、それってちょっとまずいんじゃないの?』
いりすちゃんは私の中からひょっこり出てきました。
当然幽霊ですから普通の人には見えないのですが、長らく同じ体を共有していたために魂の波長が合って、霊感が強くない私にもいりすちゃんの姿だけは見えるようになっています。
いりすちゃんは腕組みをしながら、そのかわいらしい容姿に似合わない厳かな口調で言いました。
『しばらく警戒しておいたほうがいいかもね。ひょっとしたら結界に不備があるのかもよ』
「そうなのかな……白草くんは何も言わなかったけど」
そもそもどうして結界を張ってもらったかというと、私の体質のせいです。
私の体にある隙間。そこに悪霊などが入ってきたら大変です。体をのっとられて、好き放題にされてしまう危険があります。普段はいりすちゃんがこの隙間に入ることで守ってくれていますが、もしいりすちゃんに何かあったら、私は無防備になってしまいます。彼女にばかり頼るのも悪いですし、せめて家の中だけでも、ということで悪霊の侵入を防ぐ結界を張ってもらったのです。そのおかげで、この家の中ではいりすちゃんも、こうして私の体の中から抜け出ることができます。
『あいつの言うことなんてあてにならないって。あんまり信用しすぎないほうがいいよ』
「もう。そんなことばっかり言うんだから」
白草くんも、私にとってはいい友達ですから、あまり悪く言われると悲しいです。
『あーもうわかったから、そんな顔しないで。私だってあいつのことを認めてないわけじゃないわよ。ただ、相性が悪いというか、その』
「私とは仲良くしてくれてるのに」
『そりゃそうよ。私はかなえのこと好きだもの』
面と向かってはっきり言われると、ちょっとくすぐったくなります。でも、うれしいです。
「ありがとう、いりすちゃん。私も好きだよ」
『……』
いりすちゃんは照れたように頬を掻きました。言うのは簡単でも、逆に言われるのは気恥ずかしいですね。
『ほ、ほら、もう準備は済んだんでしょ。早く学校行こ』
「うん」
空咳をひとつします。
鞄を持って、2階の自室から玄関へと下りました。靴を履き、いりすちゃんが私の体に入ってくるのを確認してから、居間のほうに声をかけます。
「行ってきまーす!」
行ってらっしゃいという母の声を背に、私は外へと飛び出しました。
空はからりと晴れて、雲ひとつない、いい天気でした。
今日も暑くなりそうです。