◇ ◇ ◇
舞台の上手側の袖に都古の姿はなかった。
ただ、奥の階段から小さくすすり泣く声が聞こえてきた。階段は舞台真下に当たる地下の用具倉庫に繋がっている。
「藤村ぁー」
声量を抑えて呼び掛けたつもりが予想以上に響き、壮は声を押し殺した。
地下倉庫に下りると、充満する埃に出迎えられた。日陰の冷たい空気に少し体が震える。
横に付いていた電気のスイッチを押す。一つきりの電球が真っ暗な空間を明るく照らした。
隅の安全マットの上で、小さな体が縮こまっていた。
体育座りで顔を両膝に埋めている。小さくすんすんと泣く姿は、小動物のように怯えて見えた。
壮は『本当に』困り果てた。ここに至っても、都古がなぜこんな体を見せるのか、まるで見当がつかなかったからだ。
しかしいつまでも黙っているわけにもいかない。都古に歩み寄りながら、何かうまく励ませる言葉はないかと必死で頭を動かす。
「──」
都古が何かを呟いた。
泣き声の混じったそれを、壮は聞き取れなかった。
「……ごめん、何か言った?」
出来るだけ優しい声で尋ねる。
都古の細い腕に力がこもった。
「……ごめん……なさい」
かろうじて聞こえた言葉は、謝罪だった。
「…………え?」
混乱。
理解が及ぶ前に、都古が顔を上げる。
「私……先輩を騙してました」
「……いや、なんのこと?」
「ごめんなさい……先輩に気に入られたくて、馬鹿なことしました」
「いや、だからさ、説明してくれ」
混乱しきった頭を整理出来ずに、壮は頭を振る。
「私……その、」
都古は数秒躊躇う素振りを見せてから、意を決したように口を開いた。
「私……無口でもおしとやかでもないんです」
どれほど驚愕すべきことを言われるだろうかと身構えていた壮は、そのあまりに意外なあっけなさに目を丸くした。
「……………………は?」
都古はついに言ってしまったという顔をしている。
「先輩って……おとなしい子が、好きなんですよね……?」
「え……まあ、タイプだけど」
頷きながら頭の中をまとめる。
「ヨッシー先輩からそれを聞いて……私、気に入られたくて、おとなしく見えるように振る舞って……」
「……」
彼女の悩みとはつまるところ、『嫌われたくない』、という一点に尽きたのだろうか。
「でも、騙しているのが心苦しくなって……そのうちちゃんと言おうと思ってたんですけど、でも……」
本当に些細なことだった。
しかし壮は、ようやく都古のすべてが見えたような気がしていた。
「藤村」
「は、はい」
「付き合ってほしい」
「……え?」
実にあっさりした口調で、少年は言った。
都古は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて、ぼんやりと壮を見つめる。
自然と笑みがこぼれた。
「会いに来たのは、ちゃんと返事をするためだ。だから、言えてよかった」
都古は肩を震わせると、不安げに問う。
「せ、先輩……怒ってないんですか?」
「ああ」
「それに付き合う、って」
「え、ダメ?」
ふるふる、と首を振る都古。
「嬉しい……けど私、先輩の好きなタイプからかけ離れてます」
壮は肩をすくめた。
「付き合う相手が好きなタイプである必要はないだろ。俺は型じゃなくて人を見て判断する。まだ藤村のこと少ししか知らないけど、これからたくさん知っていきたい。だから──」
壮は都古の正面に膝立ちになると、小さな肩を優しく掴んだ。
「俺と、付き合って下さい」
都古はしばらく上目遣いに見つめてきたが、やがて小さく頷き、夏のひまわりのように笑んだ。
目の端に残った涙の欠片が、淡い電球を受けて微かに光った。
しばらくして、都古が顔を伏せた。
「どうした?」
問うと、少女は腰を起こした。そして体を少年の方に傾けた。
壮は慌てて支える。
胸で抱き止める格好になり、壮は少し戸惑った。急であることもそうだが、体操着越しに伝わる体の柔らかさが、
「……先輩」
「な、何?」
「キス……してもいいですか?」
心拍が一気に跳ね上がった。まるで試験前のような緊張が全身を覆う。
「あ……」
頷こうとしてうまく首が動かなかった。
都古はおかしげに笑うと、返事も待たずに顔を近付けてきた。
小さな顔が、視界を暗く遮り、
「…………」
五秒間、温かい感触が唇を包んだ。
都古の顔が離れる。甘い匂いと柔らかい触りは壮の脳を麻痺させるには十分で、とても惜しく感じた。
都古は嬉しそうに微笑むと、続けて言った。
「……先輩、次の時間サボりません?」
「な?」
唐突な申し出に、大いに困惑する。
都古は深呼吸をすると、壮の胴に腕を回した。体がさっきよりも密着して、壮は意味もなく焦る。
「せっかくの二人っきりですし、その……お、おしたおしますっ」
意味を悟る前に壮の体は後方へと倒されていた。
膝立ちから一瞬で仰向けになった壮の目に、舞台の床を支える木と鉄の骨組みが映った。この上で校長が長々と喋ったり、演劇部がリハーサルしたりするんだな、と今の状況とはズレたことを考えた。
都古は顔を赤くしていたが、やめるつもりはないようだった。
「ふ、藤村」
「服、脱がします」
白く小さい指がカッターシャツのボタンにかかる。たどたどしい手付きがゆっくりと下に移動していく。
上から丁寧に外し終えると、都古は露になった男の裸にごくりと息を呑んだ。見られながら、壮はどうにか拒絶の方法を考える。
「厚い、ですね。男の人の胸板って」
岩盤の肌触りを確かめるように、掌が固い胸を撫でる。心臓の位置に来ると、早鐘を感じ取るように手を止めた。
「藤村、誰か来たら……」
「次の時間、どこも体育はないですよ」
「なんでそんなこと把握してるんだよ……。君……お前、自分のしてることわかってるか?」
呼び方を微妙に変えたが、都古はそれだけで嬉しそうだった。
「わかってます。先輩に処女あげますから、押し倒されて下さい」
「……」
手が微かに震えている。大胆な行動の裏に、やはり怖さはあるのだろう。壮は天井に向けて溜め息をついた。
随分と頼まれ事の多い日だ。すべてをこなしている自分は結構頑張っているのではないか。
「一応言っとくけど童貞だぞ」
都古の目が細かく瞬いた。
「じゃあ初めて同士ですね」
「だから加減の仕方を知らない。痛いかもしれないぞ」
「それは怖いですけど、死んだりはしないと思いますから大丈夫です」
「……女は度胸か?」
「意地ですよ」
即答されて、少年は苦笑。
「男は見栄だ。俺はあんまりないけど、少しはかっこつけたくなる。女の前では特に」
「私も意地はあんまりないですけど、無理やり出します。臆病だから」
壮は体を起こすと、都古を真正面から抱き締めた。
都古は目を瞑ると、壮の胸元で安堵の息を吐いた。
冷たい空気の中で二人は、互いの体を暖め合うように抱き締めていた。
体操着姿の小さな少女が、安全マットの上に仰向けになっている。
その上には、少女よりもずっと大きな体格の少年。
壮はおもむろにカッターシャツを脱ぐ。
「ボタンが一つ外れかけてましたよ」
「ん? ああ、まあな」
「あとで直してあげます」
都古は下からにこりと笑む。
リラックスを心掛けているのだろう。壮は手早く行為に入ろうと思った。
明るい黄緑のショートパンツが目に映る。脱がそうと手を掛け、やめる。そして右手を腹の下から中に滑り込ませた。
「あっ」
短い悲鳴。
「あの、脱がさないんですか?」
「体操着は着衣の方が興奮する」
「そ、そういうものですか。……ひゃっ」
下着の隙間から中を探る。柔らかい股の肉はしっとりと汗がついていた。体育の後だからか。
右手が恥毛の茂みに触れた。この奥だろうか。分けいって入っていくと、下の方にそれらしき感触を探り当てた。縦に筋が延びているようで、人差し指でなぞる。
都古の顔が小さく歪む。
往復してなぞりあげると、今度は指で押してみた。
「っ……あの、多分もう少し下の方、」
少し苦痛の呼気が漏れた。言われるままに指を下に滑らせる。意外と難しいものだ。
思いきって人差し指を中に進入させてみる。
「ひあっ」
都古の体が硬直した。下半身にまで力が入り、中の指が締め付けられた。
「大丈夫か?」
「は、はい、多分」
壮は都古の右手側に膝をつくと、左手で上の木綿シャツをめくりあげた。水色のブラジャーが小さな胸を隠している。
「え? あ、あの」
戸惑いと羞恥の声を上げる都古。壮は構わずブラジャーに手を掛け、上にずらした。
二つの膨らみは体に比例するように小さい。谷間と呼べるほどのフォルムはなく、仰向けでは重力に負けて平に近付いてしまう。
都古は泣きそうなくらいに顔を真っ赤にしていたが、壮にとっては気にするほどのことでもなかった。興奮を煽るには、好きな娘の体というだけで十分過ぎる。
小さな丘の先端に舌を這わせた。
「ん、くすぐったいです……」
左乳首を舌で舐め回しながら、左手で右を摘む。
「ん、く、ん……」
短い呼気を漏らす都古を見て、壮はさらに止めていた右手の動きを再開した。
指を先程よりも深く進入させる。相変わらず締め付けはきついが、少しずつぬめりが増してきている。
「先輩……キスして下さい」
「ああ、俺もしたい」
興奮が高まっていく中、二人は二度目のキスを交わす。
お互いに唇を深く深く押し付け合い、やがてどちらからともなく舌を絡ませ始めた。
唾液や口唇の熱が頭にまで上ってくるようで、壮は風呂上がりのようにのぼせた。
唇を離したとき、都古の目が惚けているように見えた。熱で浮かされているのかもしれない。
右手にじっとりと粘りつく量が増した。ぬめった秘所の内側を擦り上げる。
「ひっ、あっ、んん……っ」
股間の弄りが徐々に大胆になってきているのを受けて、都古の叫声にも色が混じり始める。苦痛の印象はなく、ひょっとしたら快感にまで達しているのかもしれない。
「どうだ。痛いか?」
都古は幼さの残る肢体を悩ましげにくねらせながら首を振った。
「いえ、……でも、あついです」
「熱い?」
「こんなにすごいのはじめて……」
精神的な昂りが性的快楽に繋がっているのかもしれない。こんな薄暗い地下の隅っこで、二人っきりで授業をさぼって、情事に耽っているのだ。
端的に、狂い出しているのだろう。もちろん壮も含めて。
理性は時間が経つごとに薄まっていくようで、壮は秘所をほぐすようにかき回し、胸を触り、乳首に吸い付き、体中にキスの雨を降らせた。
都古の体はどこもかしこも柔らかく、何度見ても、触っても飽きないだろうと思った。どこかを触る度に色っぽさがどんどん増していく。
体全体が桃色に上気していくのを見て取り、壮はようやく秘唇から右指を抜いた。体を離し、都古の顔を見つめる。都古も荒い息を吐き出しながら壮の顔を見つめた。
視線が重なり、意思の疎通が図られる。次のステップへという思いが互いに伝わって、二人は同時に頷いた。