「おじゃまします」
俺は比奈に連れられて、四本の家に上がった。
てっきりうちに泊まると思っていたのだが、比奈は拒否した。帰ってやりたいことがあるという。留衣くんも一緒に来て、と言われたので俺もついていった。
玄関から広いリビングを抜けて階段を上がり、二階の比奈の部屋に向かう。
部屋に入ると、扉を閉めるなり比奈は俺に抱きついてきた。
「うわっ」
受け止めながらもいきなりの行動に戸惑う。
「ひ、比奈?」
比奈は俺の顔を見上げながら、至近で囁いた。
「留衣くん……私を抱いてほしいの」
「……は?」
唐突な申し出に俺は一瞬思考停止に陥った。
抱いてほしい。
……今から?
改めて状況を見直す。
誰もいない家に二人きり。しかも夜で、明日は日曜で、
比奈についていった時点でなぜその可能性に到らなかったのか、俺は己の鈍さを呪った。
断ろうとして、しかし比奈の顔が存外に真剣なのを見てとる。
理由を訊かなければならないだろう。
「急に、どうしたんだ?」
比奈は顔を赤くしながらも答えた。
「私は留衣くんに抱かれないと生きていけないんだよね?」
「……ああ」
「それはいいの。ちゃんと心の整理はついてる。でも、そういう『やらなきゃいけない』っていう義務感だけでしたくはないの」
比奈の腕に力がこもる。
「私たち、恋人同士になったんだよね? なら、その最初の一回目くらいは、そういう理由抜きで、純粋に……あ、愛し合いたい……」
「比奈……」
比奈の言葉には俺へのまっすぐな想いが込められていて、ドキッとした。
こんなことを言われて、断れる男がいるだろうか。
俺は比奈を抱き締め返すと、耳元で囁いた。
「俺も、比奈を抱きたい」
「うん……」
シャワーを浴びたいと言い、比奈はそそくさと部屋を出ていく。
手持ち無沙汰になった俺はベッドに腰を下ろした。
ドキドキしていた。何のわだかまりもなく比奈を抱ける。そのことが嬉しく、そして緊張する。
唾を一つ呑み込むと、俺は気を紛らすように部屋の中を見回した。
比奈を犯すために何度か入っているが、こうして落ち着いて室内を見るのは随分久しぶりかもしれない。
白い壁に白く輝く照明。薄蒲色を基調とした絨毯。木製の机はコンパクトな大きさで、部屋を狭くはさせない。隣の本棚には教科書やノート、漫画や小説が並び、さらにその横には反対側のクローゼットと相対するように姿見が佇んでいた。
ここで、今から俺たちは。
想像するだけで胸が高鳴る。
自分の心臓の音に倒れそうな思いだった。
戻ってきた比奈を見て、俺は放心した。
ピンクの薄いパジャマを着た彼女は妙に色っぽかった。体のラインがはっきり浮き出ているためだろうか。それとも服の隙間から覗く肌が仄かに上気しているためだろうか。
それとも──
「……」
比奈の顔がうっすら紅潮していて可愛らしく見えるためだろうか。
俺はその姿に目を奪われて身じろぎもできない。
比奈がゆっくり近付いてくる。
近付いて、隣に腰を下ろして、小さく息を吐く。
「……お待たせ」
俺はうまく言葉を返せず、必死で頭を動かした。
そうしてようやく見つけた言葉を、取り繕うように口にする。
「俺も、入ってくるよ。家で入ってないし、汚れてると思うから」
立ち上がろうとして、しかし腕を掴まれた。
僅かに浮いた腰は重力に引かれて再びベッドに着地する。
「いいよ、入らなくて」
「いや、そういうわけには」
「……」
「……」
比奈の熱っぽい目が俺を捉えて離さない。
しばしの沈黙の後、折れたのは結局俺だった。
「……比奈」
比奈の頬に手を添える。小さな体が微かに震えて固くなった。
そっと顔を近付けた。
比奈は動かない。ただ、静かに目を閉じた。
唇が触れ合った瞬間、俺は心臓がドラムのように激しく鳴るのを感じていた。
深くは繋がらず、五秒程で唇を離す。
「……」
比奈が薄く笑みを浮かべた。
一方俺は盛大に息を吐いていた。
「……留衣くん?」
「いや、なんていうか……深呼吸でもしないと身が持たない気がする」
「……ドキドキしてる、とか?」
「……」
素直に頷くことができない。
言葉を濁していると、比奈は急に俺の手を取った。
そして自らの左胸に掌を当てがった。
「お、おい」
声が上擦る。
比奈は何も言わずに俺の手を押し当てている。
その柔らかい感触は服の上からでも十分伝わってきた。最近になってはっきり膨らみが表れてきていて、余計に困る。もうその全てを俺は知っているのだけど、困るものは困る。
柔らかさとともに熱も感じられる。体の僅かな強張りも、内側の鼓動も。
「私も……ドキドキしてるよ」
「……っ」
「続き、お願い」
比奈の顔がまた近付く。
再びキスを交わす。今度は先程よりも、強く。
比奈の背中に腕を回し、しっかりと抱き締めながらキスを続ける。比奈の細い腕が応えるようにしがみついてきて、体全体が密着した。
何度も体を重ねているのに、いつも一方的で、こういう風に抱き合うことすらなかった。
俺は今比奈に受け入れてもらっている。
そのことが死ぬ程嬉しい。
体の力が抜けてきたのを感じ取ると、俺は舌を挿し入れてみた。
案の定というか、びくりと反応する比奈。が、それも一瞬のことで、こちらの意図を察して侵入を許してくれた。
唇から歯茎を舌先でちろちろと探る。舐めとるように丁寧に這わせていくと、唾液が分泌されてぬめりが強くなる。
比奈の舌がこちらの動きに合わせるようにくっついてきた。
舌同士が触れた瞬間、そのざらつきながらも柔らかい感触に、堪らない気持ちになった。脳天から爪先までゾクゾクと駆け抜ける快感。
俺は夢中になって比奈の舌を、口中を味わった。
まるで舌が一つの生き物として求愛行為に励んでいるようだ。こんなにいやらしく繋がり合っているのに、比奈は少しも嫌がらず、むしろ積極的に応えてくれる。
高まっていく熱は際限がないようで、俺の全身はもう興奮でいっぱいだった。
どれだけキスをしていただろう。気分的には永遠にも思える長さだったが、実際はほんの一分程度だったかもしれない。
腕の拘束を緩めて口を離すと、比奈はぷはっ、と荒い息をこぼした。
「はっ、はっ、はあっ、は……」
互いの口元にかかる細い唾液の糸が、吊り橋が崩れるようにベッドのシーツに落ちた。
比奈はまだ激しく呼吸を重ねている。
「……大丈夫か?」
「はっ……んっ……だっ、て……いき、できな、くて、……はあっ……」
顔を真っ赤にして、苦しげに答える。
「鼻で息をすればいいだろ」
しかし比奈はぶんぶんと首を振る。
「息、当たっちゃうの、恥ずかしい……」
「……変なこと気にするなあ」
睨まれた。
「変なことじゃないもん」
すねる様子は、本人には悪いが、かわいい。
「気にするなよ。息できなくなるくらい夢中になってた、ってことで」
「む、夢中になんて」
「俺はお前に夢中だぞ」
「──」
絶句した比奈を、隙を突いてそのまま押し倒した。
「あ……」
とさり、とベッドに仰向けに倒れる比奈。
上にのしかかって軽くキスをする。そのまま唇を下の方に移動させていく。
顎から喉仏に。
「んん……あっ」
首筋に口付けを落とすと、比奈が小さく声を洩らした。
動物にとっては急所となる場所だ。普通なら絶対に許さない部分で、こういう時にしかこんなことはできない。
有り得ない行為だからこそ、興奮がより強くなっていく。
手を胸に這わせた。
「!」
膨らみを撫でられて比奈の体がまた反応を見せる。
パジャマの上からゆっくり揉み込んでいくと、比奈ははっきり身じろぎ始めた。
「やあ……ん」
逃れるように体をくねらせるが、当然逃げられない。むしろ反応があった方がこちらの情欲も増すというものだ。
しかしこの感触は……
ボタンを外すと、やはりというか何も着けていなかった。
「あ、ダメ!」
比奈が慌てて隠そうとするが、両手を捕まえてそれをさせない。見たいんだ。
「み、見ないで」
「無理言うな」
「無理ってことはないと思うけど……」
「じゃあ無茶言うな」
「……」
諦めたようにぷい、と横を向く。
現れた乳房は、もちろん何度も見てはいるのだが、見惚れる程に綺麗で、俺は思わず生唾を飲んだ。
掌にちょうどよく収まる程の大きさのそれは、まるで俺のために存在するかのようだ。
両の乳首を指先でこねる。
「あン──」
小さな喘ぎ声が色っぽく耳に響いた。
人差し指と親指でつまみ、徐々に力を込めていく。爪を立てないように腹の部分を使いながら刺激を与えていくと、少し固くなってきた。
比奈は顔を背けてはいたが、呼吸の間隔が短くなっていて、何度も唾を飲み込んでいた。
ちゃんと気持ちよくなっているようで、嬉しくなる。
はだけた胸に唇を寄せた。
「ひゃ!?」
不意打ちだったせいか、比奈は驚きの声を上げた。
まずは右の胸。勢いよく吸い付いてわざと音を立てた。じゅぱ、じゅぷ、と卑猥な音が生じ、それを聞いた比奈が顔を歪めた。
「だ、だめ、留衣くん! そんなに吸わないで!」
俺は構わず吸い続ける。
「だめって、言ってるのに……やっ!」
左の乳首にもしゃぶりつく。指でこね続けていたからもうすっかり先端は固くなっていたが、口でさらに刺激を加えてやる。
「留衣くん、そんなにおっぱい好きなの……?」
「お前の体が好きなの」
「……っ。こんな、子供っぽい体でも……?」
「どこが子供だ。しっかり胸はあるし、肉も柔らかい。魅力的な体だよ」
「でも……」
「言っとくけどな、二年間ずっとお前の体の成長を間近で見てきたんだぞ。どんどん女になっていくからこっちは気が狂いそうだった。こんなにいやらしくなりやがって」
左手で股間をまさぐると、比奈は「きゃあ!」と悲鳴を上げた。
……反応が敏感すぎる。
「まさかもう濡れてたりするのか?」
「なっ!? ち、違っ、」
俺は左手をそのままパジャマの中に突っ込んで確かめてみた。
「や、やだ」
ショーツの中、正中線の一番下の部分を触ると、こもった熱とともにぬるぬるとした感触が、
「……嘘つきだな」
「留衣くんのバカぁ!」
「もう脱がせるぞ」
有無を言わさず、下の服をずり下ろした。下着も一緒に下ろしたために比奈はあられもない姿となる。
「留衣くんのヘンタイ! 痴漢! 犯罪者!」
「全部その通りなのが困りどころだな」
こういう反応の一つ一つがまた俺を喜ばせるということに、そろそろ気付いてもよさそうなものだが。
怖がってくれるよりずっといい。
俺はお前を怖がらせてきた。ひょっとしたらこういう行為に関してトラウマを植え付けているのではないかと心配だった。
今の比奈は羞恥を抱いてはいるものの、拒んではいない。それは俺をとても安心させる。
からかいながらも、内心で俺はひどく安堵していた。
「比奈」
名前を呼ぶと、比奈はじっと俺を見つめてきた。
「もう……その目は反則」
「何?」
「何でもない。……いいよ、続けて」
「その前に、ちゃんと服を脱がせたいんだけど」
「じ、自分で脱ぎますっ。留衣くんは自分のを脱ぎなさい」
言われて気付いた。己を省みると一枚も脱いでいない。
「早くしないと私が無理矢理脱がせるよ」
それもいいかもしれないと、俺は一瞬馬鹿なことを考えた。