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Lost stuffed animal・2


 小さい頃、仲のよい友人がいた。
 名前はカスミ。「霞澄」という漢字は小学生には難しくて、日記や手紙、クラスの連絡ノートに名前を書くときは、カタカナで「カスミ」と書くのが通例だった。
 それに対して、ある日「「由紀乃」って3文字も書くのは大変だから、「ユキノ」でいい?」と、カスミもこちらにカタカナ書きを求めてきた。
 私は「おそろいのカタカナ書き」というのがなんだかおもしろくて、すぐにうなずいた。カスミはにっこり笑って、ノートに「ユキノちゃん」と書いた。
 それが仲良くなったきっかけだと思う。1学年に1クラスずつしかない田舎の学校だったから、クラスメイトは男女合わせて20人もいなかった。友達なんてその十数人の中でしか生まれないが、カスミはその中で一番の友達だった。
 カスミも家の中で遊ぶことが多い子だった。カスミの家には私の家にはない多くの本やぬいぐるみがあった。私はおすすめの本をよく借りて、代わりに自分の漫画をカスミに貸した。カスミの両親は本やぬいぐるみを与えていた反面、漫画はあまり読ませないようにしていたらしく、私が持っている漫画を見ると、カスミはよく目を輝かせていた。
 お互いの家の居心地がよかったからだろうか。私たちは交互にお互いの家を訪れて遊んだ。本を読み、漫画を読み、ぬいぐるみを触り、お菓子を食べる。そして他愛もない会話に興じる。何を話していたか、そこまで細かいことは覚えていない。しかしなんでもない内容の会話が、とても楽しかったという記憶だけはおぼろげに残っていた。
 だが、カスミとの思い出は、楽しさだけに彩られたものではなかった。
 カスミが私に何か悪いことをしたわけではない。他愛もないやり取りの中で、他愛もないケンカをしたことはあったかもしれないが、それは友達同士の、すぐに収まる程度のものでしかなく、カスミが私に険悪になったことは一度もなかった。
 そう、カスミは何も悪いことはしなかった。
 悪いことをしたのは、私だった。

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