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番外編・彼氏の要求


 視界が闇に覆われた瞬間、喉がこくりと鳴った。
 ベッドの上で仰向けになっている私は、ハンカチで目隠しをされている。
 何も不安に思うことはない。視覚が封じられているからといって、特に何かが変わるわけじゃない。手足は自由に動かせるし、いざというときはこんな目隠しすぐにはずせる。だから全然不安に思うことはないのだ。
 私をこんな状態にさせたのは私の彼氏なのだけど、別に耕介くんは私を傷つけようとするためにこんなことをしているわけじゃない。第一、耕介くんが私に危険なことをするわけがない。たぶん。
 また、喉が鳴った。
 緊張している。
 私は心臓の早鐘を聞きながら、呼吸を整える。深呼吸をすると、少し落ち着いたような気がする。
 この部屋には私と耕介くんしかいない。さっき作業を終えてから部屋のドアが開いた気配はなかったから。ただ、耕介くんはずっと無言だった。耳を澄ますと微かに呼吸音が聞こえるので、傍にいることはたしかだ。だけど、ベッド上にはいないみたい。足を動かしてみても彼の体らしきものにはぶつからないし、逆に私の体も触られてはいないからだ。おそらくは机の前の椅子に座っているんだと思う。
 私は力を抜いて、彼が近づいてくるのを待った。
 耕介くんはあまり積極的なタイプではないけど、なんだかんだでえっちなところがあるから、そのうち何か仕掛けてくるはず。予想としてはたぶん胸を触ってくるんじゃないかな。胸、いやおっぱい、大好きだもんね。
 そう思って身構えていたのに、耕介くんは何もしてこなかった。
 1分が過ぎ、2分を経過しても、彼が動く気配はない。
 動きのなさにだんだん焦れてきた。早く解いてくれないかな。ずっとこのままなんてことはないよね。まさかね。
 ……そんなこと、ないよね?
 耕介くんの様子が気になる。
 私はどうしてこんなことになったのか、そもそもの原因を思い出す。
 そう、それはたしか――。

      ◇   ◇   ◇

 私たちは、ほとんどケンカをしない。
 それは耕介くんが優しいからだと、私は思っている。口下手な私のことをよくわかってくれる彼は、こちらに対する理解をものすごく深めようとしてくれる。
 それはとても嬉しいのだけど、一方で物分りがよすぎるところがある。
 何が言いたいかというと、彼のわがままをあまり聞いたことがないのだ。
 あえて挙げるなら、その、部屋で二人きりになったときくらい。二人の時間が始まってしまうと、彼はちょっと欲を抑えられないのか、結構激しくなる。
 耕介くんははっきりいってかなりえっちだ。
 それもむっつりだ。
 自分からはなかなか誘ってこないへたれな面もあって、私から誘うことが多い気がする。私ばかりえっちなことを求めているみたいで、それはちょっと恥ずかしいのだ。
 たまには耕介くんから求めてきてもいいじゃないか。
 だから私は下校途中、人のいない小道に入ったところで、彼に言った。
「たまには、耕介くんのしたいこと、してほしい」
 普段より小声だったかもしれない。
 耕介くんは戸惑ったように、聞き返してきた。
「……急にどうしたの?」
「……」
 あ、いけないいけない。察しのいい耕介くんでも、さすがにこれだけでは伝わらない。私は言葉を整理して伝える。
「えっちの話」
 ぎょっとした目を向けられて、私はまた自省する。いけないいけない。いくらなんでもストレートすぎたかな。でも口から出た言葉は取り消せない。開き直って私は続けた。
「いつも私に応えてくれるから、耕介くんがしたいことあるなら、なんでもききたい」
 耕介くんはまじまじと私を見つめた。
 ポーカーフェイスを装ったつもりだけど、もしかしたら赤面していたかもしれない。それが移ったのかどうか、目を合わせていた耕介くんの顔がみるみるうちに赤くなっていった。それがおかしくて、噴き出しそうになるのをなんとかこらえた。
「ええと、今のままでも十分満足してるんだけど……」
 私が顔を覗き込むと、耕介くんは目を逸らした。
「うーん……なんていうか、積極的な文花を見るのが結構好きなのかもしれない」
「…………」
 我ながら剣呑な目つきになったと思う。
「あ、いや、なんていうか、文花が遠慮なくぼくに近づいてきてくれることに安心するというか、気持ちが伝わってくるのが嬉しいというか、その、」
 言い訳くさい。でもわからなくもない。
 気持ちなら、いつだって伝えたい。
 言葉にするのは苦手だから。
 耕介くんは私のことをよくわかってくれる人だけど、やっぱり100%理解してくれるわけではない。違う人間である以上、それは仕方のない部分だから気にしない。でも、気にはなる。
 私はちゃんと気持ちを伝えているだろうか。伝えきれているだろうか。
 そこはいつも気になる。だから耕介くんが同じようなことを気にしてくれるのは、私も嬉しい。
 けど、私だって耕介くんの気持ちを完全にわかっているわけじゃないから、つい積極的に求めてしまう。
 私から求めれば彼も応えてくれるから。
 そうすることで、愛されていることを実感できるから。
 付き合い始めた頃に比べたら、耕介くんも遠慮は少なくなった。
 けど、もっともっとと求めてしまうのは、わがままなのかな。
 そして、もっと求められたいと思うのは、悪いことなのかな。
 困らせたいわけではないのにね。
「……うーん、文花が嫌がることはしたくないんだけどなあ」
 それはつまり、嫌がるようなことを想像したことがあると?
 大抵のことなら私は受け入れられる自信がある。だから何も遠慮することないのに。
 そう言っても、耕介くんは優しいから結局無理強いしてくることはないだろう。いいことなのか悪いことなのか、それはわからないけど、まあ耕介くんらしいということで。
「耕介くんは、Mだから」
 率直につぶやく。
 本当はものすごくえっちなくせに、むっつりだからいつも受身になるのが彼の悪いところだ。まったく、少しはこっちをリードしてくれてもいいじゃないか。
 不意に、手をつかまれた。
「……?」
 足を止めると、隣に立つ耕介くんの顔が、ちょっと険しいものになっていた。
「……なんでも言っていいの?」
 その言葉になぜかどきりとした。
 流されるように小さくうなずく。
 そんな風に念を押されると、こちらが言い出したこととはいえ、少し緊張する。なんでも、という響きにいっそうの妖しさを覚えて、私はひゅ、と息を呑んだ。
 そして、耕介くんは言った。
「じゃあ、今度の休みの日に、ぼくの家に来てくれる?」

      ◇   ◇   ◇

 で、現在に至る。
 耕介くんの部屋には何度か来たことがあるから、おおよその造りは把握しているのだけど、目隠しをされると途端に違う世界に迷い込んでしまったような錯覚を覚えた。
 いや、本当に錯覚なのだろうか。
 さっきから耕介くんは何も言わない。
 口を開かず、その気配も希薄だ。もしかしてもうこの部屋にはいないんじゃないか。そんな風に思ってしまうくらい、部屋の中は静かだった。
 不安になっているのがわかった。
 耕介くんが何かをしてくれるなら、私はたぶん不安にはならない。けど、何もしてくれないのなら、不安な気持ちは一気に膨れ上がる。
 好きな人に何もしてもらえないというのは、困るのだ。
「文花」
 短く、名前を呼ばれた。
 特に変わった様子はない。いつものやさしい耕介くんの声だ。
「ごめん、怖がらせるつもりはないんだ」
 私は首を振って返事をする。大丈夫、あなたがそうやってそばにいてくれるなら、少しも不安なことなんてないよ。
 すると耕介くんが椅子から立ち上がる音が聞こえた。
 こちらに近づいてくる。私は身を強張らせる。目隠しプレイは初めてだけど、どんな感じなのかな。ちょっと期待する自分がいた。
 しかし、耕介くんは何もしてこなかった。
 ベッドがきしむ。耕介くんが腰を下ろしたのが感じ取れた。でもそれだけで、私の体に触れてくる様子はない。
 ごくりと、つばを飲み込む。
 今か今かと身構えているのに、なかなか彼は動こうとしない。そばにいるのはわかるのに、接触がないためにとても遠くに感じる。存在自体をうまく感じ取れなかったさっきまでと比べるとはるかにましだけど、それでもその心理的な遠さにどこか歯がゆさを感じた。
 いや、歯がゆさというより……。
「文花に、ちょっとお願いがあるんだ」
 そんなことを言われた。
「文花が一人でしているところを見たい」
 ……。
 ……え?
「…………こ、こうすけくん?」
 我ながらものすごく戸惑った声だったと思う。
「一回、見てみたいと思っていたんだ。文花はいったい何を想像して、どんな風に気持ちよくなっているんだろう、って」
「…………」
 やっぱり耕介くんはむっつりだ。
 ただ、したいことをしてほしいと言ったのは私だから、それを耕介くんが望むのなら……してもいいけど。することもやぶさかではないけど。
 私はうなずいた。あくまでしぶしぶ、「耕介くんに言われたから仕方なく」という風に、ちょっとだけ呆れたような素振りも見せて。これくらいは許してほしいな。
 ひとつだけ疑問が。
「これは……?」
 目隠しを指して尋ねる。ひとりえっちが見たいなら、別に目隠しはいらないと思う。
 でも耕介くんは、そのままつけていてと言った。
 私は言われたとおり、目隠しをしたまま行為を始める。
 仰向けの体勢で、スカートをそっと持ち上げて……
「――っ」
 心臓が大きく跳ねた。
 見られてる。私、見られちゃってる。
 視線を感じる。はっきりとした類のものではないけど、どこかじりじりとした熱を感じる。
 そんなことあるわけない。もちろん耕介くんは私の方を見ているのだろうけど、だからといってその視線に特別な力があるわけじゃないんだから、私が感じるその熱は、彼の視線とは関係ない。
 私が変に意識しているだけ。
 そうだ、視覚が封じられているから、余計に外からの視線を意識してしまうんだ。
 私はようやくこの目隠しの意図を理解した。これはこちらの羞恥心を煽るためのものなんだ。
 私はスカートをつまみあげたまま、しばらく動けないでいた。
「文花」
 穏やかな声が私を促す。決して強制するつもりはない、しかしできればやってほしい、耕介くんはそう考えている。そして、それを私が断るわけがないのだ。
 私は下着の中に手を入れた。
 今日はお気に入りのやつだから、あまり汚したくはないんだけど、この状態で脱いでしまうとまともに耕介くんに大事なところを見られてしまうことになる。今さらだなんて、とてもじゃないけど思えない。目隠しのせいでいつもの自分じゃないみたいだった。
 触ると、生温かいぬめりが指先を濡らした。
 煽られたせいだ。羞恥心が私の熱をほどよく高めていた。
 だから、恥ずかしさはあっても指は勝手に動いた。
 鈍い刺激がじわりと快感をもたらした。
 だめ、これ以上はだめ。
 心臓の音がやたら激しく聞こえる。テンポも速い。その速さに比例するように胸が苦しくなる。その胸を彼が触ってくれたら、どんなにか気持ちいいだろう。そのまま私の体に指を這わせてくれたら、どんなにか心地いいだろう。それを想像するだけで私の興奮は高まっていく。
 耕介くんに出会う前は、自分でしたことはなかった。
 彼を知り、好きになり、抱かれてから、それをするようになった。想像の中で彼はいつも激しく私を求めてきて、私も彼に応えようとする。それは欲求不満からくるものではなく、彼のことを想像する楽しさからかき立てられるものだ。
 でもその想像の中で、こんな焦らすようなまねはされたことがなかった。私の想像とは違う、私の知らない耕介くんの一面。
 それを知ることができたのはうれしいけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 恥ずかしいのに、手は勝手に動く。
 ひとりでするのって、こんなに恥ずかしいことだったんだ。
 見られているという意識だけで、全身が燃えるように熱かった。
 想像の中の彼と、今私を見ている現実の彼は違う。けどどちらも耕介くんで、私が大好きな人で、内側と外側から焼き焦がされるような、二重の熱が私を襲った。どちらも現実の私には決定的に触れてくれない、でも私の性感はどこまでも上っていく。
 直接触らなくても、相手を攻めることはできるらしい。今の私は、ひとりでしているはずなのに、完全に受けに回っていた。
 耕介くんのばか。こんなの、卑怯だよ。
 耕介くんがその手で何かをしてくれるなら、私は全然いやじゃない。恥ずかしい気持ちはあっても、少しもいやだとは思わない。
 だけどまったく触ってくれないのなら、どんなに気持ちよくても空しさがどこかにつきまとって、妙にやりきれない。切ない。
 ばか。ばかばかばか。
 こうすけくんのすけは助平の助に変えるべきだ。何も介していないくせに何が耕“介”だ。触ってもくれないくせに。
 そんな不満を抱きながらも、指は止まらない。ああ、今の私は傍から見たらとっても間抜けに見えるんだろうな。耕介くんは責任を取ってほしい。早く、こんなの、
「かわいいね、文花は」
 急に声をかけてくるものだから、体が反応してしまった。びくりと波が立つように震えて、喉が連動するように微かに鳴る。
 依然として彼の手は遠く彼方にある。でも声は此方にあった。
 いったい今の私はどう見えているのだろう。右手の人差し指と中指を内側へと挿し入れて、親指の腹の部分で突起している点をなでるようにこすって、時おり左手で胸の方も強く押さえつけて、もう衣服はかなり乱れてしまっているだろうに、何がかわいいのだろう。そんなこと言われても困惑するばかりだ。混乱の極地だ。
 それでも此方に聞こえた声は自分の指より刺激的だった。情欲は精神的なものだから、その声だけでも今の私には強く響くようだ。
 もっとささやいてほしい。触ってくれないなら、抱きしめてくれないなら、せめて声を聞かせて。
「最後まで見せてくれたら、ごほうびあげる」
 ばかこうすけ。なまいき。
 あとでおぼえてなさい。
「んん……ふあっ……!」
 口からかすれ声が漏れた。
 軽い絶頂を迎えた。軽いのに絶頂というのもおかしな言い回しだと思うけど、実際のところ快感の類としてはまだ弱めな方だった。
 こんなんじゃ足りない。荒い息を吐き出し、私は体を起こそうとする。こんな目隠し取ってしまいたい。
 だめ。
 やっぱり私は、耕介くんにちゃんと触ってもらいたい。
 ぎゅっと抱きしめてもらいたい。
 キスしたい。抱きしめたい。胸に顔をうずめたい。
 我慢できなくなって、私は気だるさが残る体をがんばって起こしにかかった。
「あ……!」
 また口から呼気が漏れた。
 体を起こしかけていたところで、真正面から押し倒された。
 感じるのは大好きな重み。
 見た目より引き締まった体が、私のすぐ上にいる。
「目隠し、取るよ」
 ハンカチが取り払われると、部屋の光をまぶしく感じた。
 ぼやけた視界の先には、すぐ目の前には、私の彼氏がいる。
 喉の奥から深い深いため息が出た。
 安堵というのがぴったりだった。いくら近くにいるからって、視覚を奪われて触覚さえ意味を成さない状態にあっては、やっぱり不安な気持ちは拭えなかったのだ。恐怖とまではいかなくても、いつもと違うやり方にずっと戸惑っていて、恥ずかしさや切なさも重なって何がなにやら困惑しっぱなしだった。
 思わず目の前の相手をにらむ。
 耕介くんはちょっとだけ申し訳なさそうだった。
「目隠しは余計だったかもね」
「……」
「ごめんね。赤くなってる」
 ずっとハンカチで縛っていた顔のことか、それともその布に隠された目元のことか、私にはわからなかった。
 どちらにしても見られたくなかった。だから、
「んっ」
 彼の首元に手を伸ばし、その頭を引き寄せて唇を重ねた。
 重ねるだけじゃ足りなかった。彼の口内に無理やり舌を入れて、熱を伝えるように深く深く柔肉を伸ばした。
 耕介くんは抵抗しなかった。
 代わりにキスで応えてきた。
 絡まる舌の感触にぞくぞくして、同時に安心もして、私は唇をしばらく離さなかった。
 ふと、下腹部に何かが当たっていることに気づく。
 耕介くんも気づいたのか、罰が悪そうに目を逸らした。
「……いいよ」
 私がそう言うと、耕介くんは心配そうに眉を寄せた。
「でも文花、だいぶ息が荒いよ」
 それはキスのせいだし。
 それに、
「ちゃんとしたい」
 やっぱり普通にするのが一番だから。このもやもやを吹き飛ばすくらい、あなたと気持ちよくなりたい。
 耕介くんはわずかに逡巡したが、やがてうなずいた。
「うん。ぼくもしたい。さっきまで文花のかわいい様子を見てたから、正直かなり興奮してるし」
 それは感触でわかるよ。
 私は体の力を抜いて、ベッドに体重を預けた。二人分の体重に圧されて、スプリングがきしんだ。
 ここにきて互いに焦らすようなまねはしなかった。服を脱ぎ、生まれたままの姿になり、肌をくっつけて、互いの温度を伝え合って、程なくしてつながり合った。
 頭はふわふわと夢の中にいるような心地だった。麻痺しているわけではなく、ずっと気持ちのいい状態が続いている感じで、いつもよりずっと気持ちよかった。ずっと触ってもらえなかったせいか、耕介くんの指が肌を軽くなぞるだけで信じられないくらい体がとろけた。
 ゆっくりと味わう余裕さえない。私は耕介くんの動きに合わせて自分でもいやらしく腰を動かして、快楽をひたすら貪った。
 脳の神経が焼き切れそうなほどヒートアップして、性感はどこまでも高められて、いつまでも冷めることがない。
 このまま溶け合ってしまいそうに思ったころ、耕介くんの動きが激しさを増した。
 私は彼の首筋にすがるように抱きつき、頭を肩に押し付けて鎖骨の硬い感触を口元に感じながら一気に達した。
 意識を手放さなかったのは、自分でも驚きだった。今のはそのまま失神してもおかしくないくらい、強烈な行為だった。
 耳元で耕介くんの大きな息遣いが聞こえている。たぶん、私の方も同じような感じだと思う。
 顔を見合わせると、早鐘を打つ心臓がどこか心地よく感じられ、私は愛しさに身を委ねて、しばらくその素敵な気分に浸った。
 肌を通して想いが伝わるよう、心の中で何度も何度も同じ言葉をささやいた。

      ◇   ◇   ◇

「あのお……」
 ベッドの上で情けない声を出しているのは、私の彼氏だ。
 裸で、ハンカチで目隠しをされて仰向けになっている様子は、他人が見たら間違いなく通報ものだと思う。見るに堪えない。
 でも私は全然平気。これくらいで幻滅するほど、軽い気持ちじゃないし、むしろこんな風にされるがままになっている耕介くんもかわいいと思う。
「文花、これっていったいどういうことなの?」
「仕返し」
 短く答えると、耕介くんの喉が小さく上下した。
 私の方はすでに服を着直している。耕介くんも一応トランクスだけは穿かせたけど、それ以外は素肌をさらしている。気温はそんなに低くないし、寒くなったらエアコンで調整するから安心してほしい。
「仕返しって、いったい何するのさ?」
「耕介くんも見せて」
「……何を?」
「ひとりでしているところ」
 私もしたのだから、そっちも見せてくれないと不公平じゃない。
 耕介くんは意味を成さないうめき声を漏らすと、ため息をついた。
「もしかして文花、怒ってる?」
 まさか。
 私は全然、まったく、これっぽっちも怒っていない。私たちの自慢はケンカをしないことだし。
 ただ、耕介くんがなんだかすごくなまいきだったから、おもしろくないと思っただけだ。
 やられっぱなしは悔しいのだ。
 それに男の人がどんな風にするのか、ちょっと興味もある。
 不安そうな様子の耕介くんに向かって、目隠しで見えないことを承知で、私はにっこり微笑んだ。
「最後まで見せてくれたら、ごほうびあげる」
 どこかで聞いた言葉をささやくと、耕介くんは疲れたように苦笑いをした。

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