彼女の嫉妬・3
◇ ◇ ◇
バレンタインから三日後。
朝の登校中に、突然声をかけられた。
「耕介くん」
振り返ると、先輩がいた。厚手のコートに身を包み、長い髪が緩やかな風に揺れている。
とりあえずおはようございます、と頭を下げた。
「おはよ。耕介くん、ちょっと訊きたいことがあるのだけど、いいかな?」
先輩の問いかけにぼくは首を傾げた。
「なんですか?」
「あんなかわいい彼女とどこで知り合ったの?」
「かっ」
咳き込んだ。
思わぬ不意打ちに、ぼくはなぜかうろたえる。
「げほっ……えと、誰から聞きました?」
「一昨日、彼女さんから直接会いに来てくれたんだよ」
妙に楽しそうに先輩は話す。
「教室にやってきてね、いきなり私に言ったの。小さな声だったけど、『負けませんから』って。事情を聞いてみると、バレンタインにいろいろあったみたいじゃない。で、ちょっとおもしろかったから、私が申し出たの。『よければおいしいチョコレートの作り方、教えてあげようか?』って」
「……」
「そしたら案外素直についてきてくれて、一緒にお菓子作っちゃった。闘志メラメラだったけど、かわいいし言うこと聞いてくれるし手際いいしで、友達になっちゃった」
「……はあ」
なんと答えていいかわからず、ぼくは曖昧に頷いた。
「で、ものは相談なんだけど、あの子さ、私にちょうだい?」
「……はあ!?」
ありえない申し出にぼくは叫んだ。
「だってかわいいんだものー。もうずっと愛でていたいくらい。そういうわけで、どうかな?」
「お断りします」
ぼくは即答した。当たり前だ。
「えー、なんでー」
「文花はぼくの大切な恋人だからです。絶対に離しません」
力強く断言する。先輩のたわごとはともかく、こればっかりは譲れない。
「ふうむ、そっかー。じゃあ仕方ないな」
案外あっさり引いてくれそうで、ぼくは内心ほっとした。まさかとは思うけど、一応警戒しておかないと。
しかし、続けて吐かれた台詞にはさすがに絶句した。
「じゃあ二人とももらっちゃおうかな。二人は恋人のままで、セットでいただくというのは?」
「……!?」
理解不能だった。
「あ、あの、先輩?」
「ん? なにー?」
「先輩って、失礼ですけど……同性愛の気があるんですか?」
先輩は首を振った。そうか、そりゃそうだよな。
「違う違う。私は両刀使いなの」
「はああっ!?」
予想のさらに上だった。
「二人ともかわいいから、一緒にかわいがりたいの。ねえ、悪いようにはしないよ? どう?」
ぼくはもうどう答えていいかわからず、その場から駆け出した。
「あ、ちょっと」
どう答えればいいんだ。とてもぼくだけでは対処できない。文花に早く会って相談しないと。
って、一昨日会った? じゃあもう文花は先輩の毒牙にかかってしまったのか? いや、まさか、そんな、
「あ、安心して! 青川さんにはまだ手は出してないから!」
後ろからそんな声が届く。まだって何。
「やっぱりまとめていただくのがおいしいと思うの! だから耕介くんと文花ちゃん、いっしょに味わいたいから、楽しみにしててね! あと、文花ちゃんに伝えて! 今度デートしようって!」
「あんたもう黙れっ!」
ありえない恋敵の出現に、ぼくは頭が痛くなりそうだった。
っていうか、ぼく自身も狙われているし!